東京地方裁判所 昭和62年(ワ)10207号 判決 1994年10月25日
甲、丁事件原告・乙事件被告・丙事件被参加人
春田光雄
(以下、原告春田ともいう。)
右訴訟代理人弁護士
菊地史憲
同
杉浦智紹
同
渡部公夫
同
中野辰久
右菊地史憲訴訟復代理人弁護士
安井規雄
甲事件被告・乙事件原告・丙事件被参加人
株式会社三貴
(以下、被告三貴ともいう。)
右代表者代表取締役
木村和巨
右訴訟代理人弁護士
才口千晴
同
北澤純一
丙事件参加人・丁事件被告
株式会社ジェイ・ハウス
(以下、参加人ジェイ・ハウスともいう。)
右代表者代表取締役
木村和巨
右訴訟代理人弁護士
富永義政
同
上原豊
主文
一 甲事件被告は、同事件原告に対し、金二万四九一九円及びこれに対する昭和六二年八月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 甲事件原、被告間において、同事件原告は、同事件被告の二万四一〇〇株の株式を有する株主であることを確認する。
三 乙事件原告の請求を棄却する。
四 丙事件参加人の請求を棄却する。
五 丁事件被告は、同事件原告に対し、別紙株式目録(一)ないし(五)記載の株券二万四一〇〇株を引渡せ。
六 甲事件原告のその余の請求を棄却する。
七 訴訟費用は、甲、乙事件によって生じた分については、これを一〇分し、その一を甲事件原告・乙事件被告の負担とし、その余を甲事件被告・乙事件原告の負担とし、丙、丁事件によって生じた分については、これを丙事件参加人・丁事件被告の負担とする。
八 この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
(甲事件)
一 甲事件原告春田
1 被告三貴は、原告春田に対し、金一〇六三万七八三二円及びこれに対する昭和六二年八月二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 主文二項同旨
3 訴訟費用は右被告の負担とする。
4 仮執行宣言
二 甲事件被告三貴
1 原告春田の請求を棄却する。
2 訴訟費用は右原告の負担とする。
3 仮執行免脱宣言
(乙事件)
三 乙事件原告三貴
1 原告春田は、被告三貴に対し、金一億二一五七万八五一三円及びこれに対する昭和六二年一〇月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は右原告の負担とする。
3 仮執行宣言
四 乙事件被告春田
1 主文三項同旨
2 訴訟費用は被告三貴の負担とする。
(丙事件)
五 丙事件参加人ジェイ・ハウス
1 別紙株式目録(一)ないし(五)(略)記載の株式について、参加人ジェイ・ハウスが被参加人三貴の株主であることを確認する。
2 参加費用は被参加人らの負担とする。
六 丙事件被参加人春田
1 主文四項同旨
2 参加費用は参加人ジェイ・ハウスの負担とする。
七 丙事件被参加人三貴
1 参加人ジェイ・ハウスの請求を認容する。
2 参加費用は右参加人の負担とする。
(丁事件)
八 丁事件原告春田
1 主文五項同旨
2 訴訟費用は被告ジェイ・ハウスの負担とする。
3 仮執行宣言
九 丁事件被告
1 原告春田の請求を棄却する。
2 訴訟費用は右原告の負担とする。
第二当事者の主張
(甲事件)
一 原告春田の請求原因
1 退職金
<1> 原告春田は、被告三貴に昭和四一年九月一日入社し、同六二年一〇月三一日自己都合退職した。
<2> 原告春田の退職時の基本給は月額金八〇万六〇〇〇円であり、勤続年数は二〇年二か月であるところ、被告三貴の退職金規定(以下、退職金規定という。)によれば、原告春田の自己都合退職金支給率は、次の計算式のとおり、一二・七五であり、これに右基本給月額を乗じてその退職金額を計算すると、金一〇二七万六五〇〇円となる。
一二・六+〇・九×一二分の二=一二・七五
<3> しかるに、被告三貴は、昭和六一年一二月二二日退職金として金三〇九万四三〇〇円を支払ったのみで、残額金七一八万二二〇〇円を支払わない。
2 社内預金
原告春田は、被告三貴に在職中、社内預金として金三一〇万七二五〇円(北海道拓殖銀行神田支店・口座番号<略>、以下本件預金という。)を有していたが、同被告は、原告が退職の際、その返還を要求したにもかかわらずこれに応じない。
3 利子補給金
<1> 被告三貴では、昭和五〇年三月より利子補給制度を設け、社内預金について銀行利息の二割に相当する金員を社員に支払っていた。
<2> 原告春田は、被告三貴に在職中、昭和四一年九月以来、別紙利子補給金計算表(略)(一)のとおり、給料の中から社内預金をしており、銀行利息を年五パーセントとして計算すると(計算式は、同表(二)ないし(四)記載のとおり。)、原告の利子補給金は合計金三四万八三八二円となるが、同被告は、これを支払わない。
4 株式保有
原告春田は、被告三貴の別紙株式目録(一)ないし(五)記載の株式二万四一〇〇株(以下、本件株式という。)を保有しているが、同被告はこれを争う。
5 よって、原告春田は、被告三貴に対し、退職金七一八万二二〇〇円、社内預金一〇(ママ)万七二五〇円、利子補給金三四万八三八二円、合計金一〇六三万七八三二円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である昭和六二年八月二日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払、並びに原告が本件株式二万四一〇〇株を有する株主であることの確認を求める。
二 請求原因に対する被告三貴の認否・主張
1<1> 請求原因1<1>の事実は認める。
<2> 同1<2>の事実中、原告春田の退職時の基本給が月額金八〇万六〇〇〇円であったことは認めるが、その余は否認する。被告三貴においては、昭和六〇年六月一日より施行された正社員退職金規定(<証拠略>、以下、正社員退職金規定という。)があり、原告春田には同規定が適用されるべきところ、同規定によれば、受給資格について勤続年数が満五年を経過した者と定められている。しかるに、同原告は、次のように被告三貴に入退社を繰り返しているが、いずれの期間も右受給資格の勤続年数を満たしていない。
(ア) 昭和四一年九月一日入社、同四四年四月一〇日訴外株式会社大阪三貴(以下、大阪三貴という。)の代表取締役に就任したため退社。(勤続年数二年七か月)
(イ) 昭和四七年一二月二〇日大阪三貴取締役を辞任し、同日被告三貴取締役に就任。同四九年一月二〇日同取締役を解任されたが、同月二一日訴外株式会社マキ宝飾(以下マキ宝飾という。)の代表取締役に就任したが、同五四年五月二五日同取締役を解任されたため、被告三貴に再入社、同五六年一月一二日同被告の取締役に就任したため退社。(勤続年数一年七か月)
(ウ) 昭和六一年八月一日右取締役を辞任し、再々入社、同年一〇月三一日退社。(勤続年数三か月)
なお、原告春田が被告三貴、大阪三貴及びマキ宝飾の(代表)取締役に在任中は、被告三貴の社員でないので、勤続年数に通算されない。
<3> 請求原因1<3>の事実中、被告三貴が原告春田に対し、昭和六一年一二月二二日退職金として金三〇九万四三〇〇円を支払ったことは認めるが、右は、同原告の正確な勤続年数算定未了のまま支払ってしまったものである。
2 請求原因2の事実中、被告三貴が本件預金の返還要求に応じないことは認めるが、その余は否認する。本件預金は、訴外三貴グループ共済会の預金である。
3<1> 請求原因3<1>の事実は認める。
<2> 同3<2>の事実は否認する。なお、利子補給制度の受給資格者は、被告三貴の部長職より下位にある社員であり、原告春田は、総務部長等の重職を歴任しているので、受給資格のある期間は、昭和五四年五月二五日から同年一〇月三一日までである。
4 請求原因4については、原告春田がもと本件株式を保有していたことは認める。
三 被告三貴の抗弁
原告春田は、昭和六一年一〇月三一日、本件株式を参加人ジェイ・ハウスに代金合計一二〇五万円(額面合計)で売渡し、その保有権を失った。
四 被告三貴の主張・抗弁に対する原告春田の認否・主張
1 請求原因に対する認否1<2>について、原告春田に正社員退職金規定が適用されるとの主張は否認する。同規定が被告三貴の取締役会に付議されたことはない。
また、原告春田が被告三貴、大阪三貴及びマキ宝飾の(代表)取締役に在任中も、いわば使用人兼取締役の立場にあったものであり、右在任期間も退職金算定に当り勤続年数に通算されるべきである。
2 請求原因に対する認否3<2>について、利子補給制度の受給資格者は、被告三貴の部長職より下位にある社員であるとの主張は否認する。
3 抗弁は否認する。
(乙事件)
五 被告三貴の請求原因
1 被告三貴は、装身具おしゃれ用品の製造並びに販売等を目的とする会社であり、原告春田は、もと被告三貴の常務取締役として、LF(ライフ・ファッション)商品開発事業部の統括部長の職にあった。
2 原告春田は、常務取締役として、被告三貴の代表取締役を補佐して業務の全般につき善良なる管理者の注意をもって忠実にその職務を執行すべき義務を負っていたが、次のとおり右忠実義務に違反してずさんな業務執行を行い、被告三貴に損害を被らせた。
すなわち、LF商品開発事業部は、商品計画部、生産管理部、商品企画部からなっていたが、原告春田は、統括部長として、原反管理をする商品計画部や生産管理部をして適切な管理を行わしめるべき管理・監督責任を負っていたにもかかわらず、昭和六一年二月二八日棚卸の時点で、同事業部が帳簿上在庫ありと申告した原反(原材料の反物)の内、ほとんどが社外委託管理先の倉庫に六か月間も預けきりにされるのを、黙認同様に放置した。
また在庫の申告のされていない簿外原反も数多く存在していたが、原告春田は、その管理を全くしていなかった。
このため、在庫原反の劣下損・陳腐化損として金七一八二万四〇一七円、簿外原反の価値喪失・原反散逸損として金四九〇九万四〇〇〇円の各損害を被った。
3 原告春田は、次のとおり差押事件の処理担当者として的確に事件を処理すべきであったのに、その処理を誤り、被告三貴に金六六万〇四九六円の損害を被らせた。
すなわち、訴外埼玉ナショナルクレジット株式会社(以下、埼玉ナショナルクレジットという)は、昭和六〇年一〇月四日、浦和地方裁判所熊谷支部より訴外小松範行・同小松江美子を債務者、被告三貴を第三債務者とする請求債権額一五六万一五二七円の債権差押命令(同支部昭和六〇年(ル)第二三三号、以下第一事件という)を得て、同命令は、同年一〇月一八日に被告三貴に送達された。
同命令に続き、同支部から訴外株式会社東宝(以下、東宝という)を債権者、訴外小松縫製こと小松江美子を債務者、被告三貴を第三債務者とする請求債権額二二九万八六〇二円の債権差押命令(同支部昭和六〇年(ル)第二八三号、以下第二事件という)が発せられ、同命令は、同年一二月五日に被告に送達された。
第一、第二事件とも原告春田が処理担当者となったが、同原告は、第一事件を処理したのみで、第二事件を放置し、このため被告三貴は、昭和六一年五月二六日、埼玉ナショナルクレジットに差押債権一一〇万九二一〇円を支払ったが、後に東宝の請求により、昭和六二年一二月一五日、同会社が配当を受けるはずであった按分額六六万〇四九六円の支払をも余儀なくされ、被告三貴は同額の損害を被った。
4 よって、被告三貴は、原告春田に対し、不法行為又は取締役の忠実義務違反による損害賠償請求権により、金一億二一五七万八五一三円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である昭和六二年一〇月二三日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
六 請求原因に対する原告春田の認否・主張
1 請求原因1の事実は認める。
2 同2の事実中、原告春田は、常務取締役として、被告三貴の代表取締役を補佐して業務の全般につき善良なる管理者の注意をもって忠実にその職務を執行すべき義務を負っていたこと、LF商品開発事業部が商品計画部、生産管理部、商品企画部からなっていたことは認めるが、その余は否認する。原告春田は、適正な原反・在庫管理を行っており、被告三貴主張の原反は、原告春田の責任の対象外のものである。また、簿外原反は、その仕入価格が製造された商品の価格に全部織りこまれるので損害は発生していない。
3 請求原因3の事実中、被告三貴主張のとおりの第一事件の発令とその被告三貴に対する送達、及び原告春田が第一事件の処理担当者となったことは認める。第二事件の発令とその被告三貴に対する送達、及び被告三貴が東宝に対し、昭和六二年一二月一五日、金六六万〇四九六円を支払ったことは不知。その余は否認する。原告春田は、第一事件について被告三貴の顧問弁護士に相談し、解決を依頼している。
(丙事件)
七 参加人ジェイ・ハウスの請求原因
1 本件株式は、もと被参加人春田が保有していたものであるが、参加人ジェイ・ハウスは、昭和六一年一〇月三一日、同被参加人から代金合計一二〇五万円(額面合計)で買受け、これを取得した。
2 しかるに、被参加人らは、参加人ジェイ・ハウスが本件株式を保有していることを争う。
八 請求原因に対する被参加人春田の認否
1 請求原因1の事実中、本件株式は、もと被参加人春田が保有していたことは認めるが、その余は否認する。
2 同2は認める。
九 請求原因に対する被参加人三貴の認否
全て認める。
(丁事件)
一〇 原告春田の請求原因
1 本件株式は、原告春田の保有するところであるが、被告ジェイ・ハウスは、その株券を所持している。
2 よって、原告春田は、被告ジェイ・ハウスに対し、その引渡を求める。
一一 請求原因に対する被告ジェイ・ハウスの認否
請求原因1の事実中、本件株式はもと原告春田が保有していたこと、及び被告ジェイ・ハウスがその株券を所持していることは認める。
一二 被告ジェイ・ハウスの抗弁
被告ジェイ・ハウスは、昭和六一年一〇月三一日、本件株式を原告春田から代金合計一二〇五万円(額面合計)で買受け、これを取得した。
一三 抗弁に対する原告春田の認否
否認する。
理由
(甲事件について)
一 退職金について
1 請求原因1<1>の事実、同1<2>の事実中、原告春田の退職時の本給が月額八〇万六〇〇〇円であったこと、及び同1<3>の事実中、被告三貴が同原告に対し、昭和六一年一二月二二日退職金として金三〇九万四三〇〇円を支払ったことはいずれも原告春田と被告三貴間に争いがない。
2 請求原因1の事実中、本件に適用される退職金規定は、原告春田主張にかかる退職金規定(<証拠略>)か、それとも被告三貴主張にかかる正社員退職金規定(<証拠略>)のいずれであるか判断する。
証拠(<証拠略>、原告春田本人(但し、採用しない部分を除く。))によれば、被告三貴において、かつて(証拠略)の退職金規定が適用されていたが、昭和五六年二月一〇日の経営委員会において、退職年金制度の新設に伴い一部改訂がなされた旨の報告がなされ、同委員会の了承が得られたが、これには、統括部長として同委員会の構成員である原告春田も同意していること、次いで昭和六〇年八月一日の経営委員会において、退職金規定の一部改訂案が審議され、同委員会の了承が得られたが、これには、統括部長として同委員会の構成員である原告春田も同意しており、右改訂後の退職金規定が正社員退職金規定(<証拠略>)として昭和六〇年六月一日より施行されており、昭和六二年一〇月三一日の原告春田の退職に際し、同退職金規定が適用されるべきものであったと認められる。
原告春田は、昭和六〇年八月一日の退職金一部改訂案の稟議書(<証拠略>)の形式的不備等を指摘し、同改訂案が経営委員会で審議されたことはない旨主張し、また同原告本人尋問においてそのように供述するが、前記のとおり、同原告主張にかかる退職金規定(<証拠略>)は、昭和五六年二月一〇日に一部改訂がなされたことは明らかであり、また昭和六二年一〇月三一日当時、実際に被告会社の正社員に適用されていたのが、被告三貴主張にかかる正社員退職金規定(<証拠略>)であることを疑わせる証拠はないので、右主張・供述を採用するに足りない。
3 そこで、正社員退職金規定(<証拠略>)により、原告春田の退職金を算定すると、同規定三条によれば、退職金計算の基準は退職時における給与(諸手当を含む。但し、時間外勤務手当、休日勤務手当、深夜勤務手当、通勤手当、売上功績金を除く。)とし、これに自己都合退職の場合は、勤続年数に応じ、退職金支給率表のB率を乗じて得た金額を退職金額とする旨定められ、同規定四条によれば、退職金の受給資格は勤続満五年を経過した者とする旨定められ、同規定六条によれば、社命により出向した場合は勤続年数に通算するが、試用期間(就業規則<証拠略>四条一項によれば、三か月とされる。)は、通算しない旨、そして勤続年数の計算は一年未満の端数は月割計算とし、一か月未満は切捨てとする旨規定されている。
しかるところ、退職金計算の基準となる退職時の給与については、原告春田の場合、金八〇万六〇〇〇円であることは、当事者間に争いがない。
そこで、勤続年数についてみるに、争いのない事実と証拠(<証拠・人証略>)によれば、原告春田は、昭和四一年九月一日に被告三貴に入社し、三か月の試用期間を経て、正社員となり、その後、同六一年一〇月三一日に自己都合退職するまで、(甲事件)請求原因に対する認否・主張1<2>のとおり、大阪三貴、被告三貴マキ宝飾、被告三貴の(代表)取締役に就任したことが認められる。しかるところ、被告三貴、マキ宝飾及び大阪三貴は、いわゆる三貴グループを形成し、被告三貴を中心として資本や経営形態を共通にしており、マキ宝飾及び大阪三貴は、被告三貴の地方支社ないし事業の一部門にすぎず、右両会社の、(代表)取締役といっても名ばかりのものであり、実質的には被告三貴の従業員であると認めるべきであること、被告三貴は、原告春田に対し、昭和六一年一二月二二日、退職金として金三〇九万四三〇〇円を支払ったが、同金額の算定に当たり、勤続年数について、入社日である昭和四一年九月一日から退職日である同六一年一〇月三一日まで通算二〇年二か月から試用期間である三か月を除いた一九年一一か月として計算しているものと認められることからすれば、退職金の算定基準となる勤続年数は、一九年一一か月とするのが相当である。
そこで、正社員退職金規定(<証拠略>)三条に基づき原告春田の退職金額を計算すると、次の算式のとおり、金三〇九万四三〇〇円(同規定七条により一〇〇円未満切捨て)となる。
八〇万六〇〇〇円×三・六一+八〇万六〇〇〇円×(四・一一-三・八六)×一一÷一二=三〇九万四三六八円
4 そうすると、前記のとおり、被告三貴は、右同額の退職金を既に支払済みであるので、同被告に更なる退職金支払義務はない。
二 社内預金について
証拠(<証拠・人証略>)によれば、本件預金は、もと昭和六〇年二月二二日、三貴グループに所属する社員らの親睦団体である三貴グループ共済会が、北海道拓殖銀行神田支店に普通預金していた金三〇〇万円を、原告春田が同共済会の専務理事であったことから、「共済会春田光雄」名義で定期預金に振替えたものであり、したがって、同共済会の印鑑が届出られ、定期預金証書も同共済会において所持していたものであるが、昭和六一年二月二二日の第一回めの満期日の到来の際、同支店の担当者が「共済会」を脱落し、原告春田個人名義で定期預金を継続してしまったため、同六一年一二月三一日、同原告に対し、本件預金の満期日(昭和六二年二月二二日)の通知(<証拠略>)を発送してしまったものと認められる。昭和六二年二月四日、原告春田が同支店を訪れ、本件定期預金の届出印の問い合わせをした際、同支店は、原告春田の社内預金の届出印がそれである旨回答したが、昭和六二年二月二三日、被告三貴からの問い合わせにより、本件定期預金の継続名義の転記ミスに初めて気付き、同月二四日の第二回めの満期日到来に当り、三貴グループ共済会名義での定期預金の継続手続に応じた。なお、被告三貴は、昭和六一年一一月一二日、本件預金を除き、原告春田の社内預金通帳や印鑑を全て返還していることが認められる。
右認定事実によれば、本件預金は原告春田ではなく、三貴グループ共済会の保有するものであると認めるのが相当である。
三 利子補給金について
1 請求原因3<1>の事実は原告春田と被告三貴との間に争いがない。
2 同3<2>について判断するに、原告春田は、被告三貴に在職中、昭和四一年以来、別紙利子補給金計算表(一)のとおり、給料のなかから社内預金しており、利子補給金の合計は、金三四万八三九二円となる旨主張し、同原告本人尋問においてそのように供述するが、これを裏付ける的確な証拠はなく、これを採用するに足りない。
もっとも、被告三貴は、昭和六二年四月三〇日付け原告春田に対する回答書(<証拠略>)において、昭和六一年八月一日から同年一〇月三一日までの利子補給金二万四九一九円の支払義務あ(ママ)ることを自認しているので、原告の利子補給金の請求は、その限度で理由あるものと認める。
四 株式保有について
1 請求原因4について、原告春田がもと本件株式を保有していたことは、同原告と、被告三貴との間に争いがない。
2 抗弁について判断する。
<1> 証拠(<証拠・人証略>)によれば、次の事実が認められる。
被告三貴は、装身具等おしゃれ用品の製造並びに販売等を目的として、昭和四〇年四月二六日に設立された資本金六億円の株式会社である。被告三貴の代表取締役社長は、木村和巨(以下、木村社長という。)であるが、原告春田は、木村の出身大学のワンダーフォーゲル部の後輩であり、被告三貴から勧誘があり、昭和四一年九月一日に入社して以来、大阪三貴の代表取締役、被告三貴の常務取締役・LF商品開発事業部統括部長、マキ宝飾の代表取締役等の要職を歴任してきた。
被告三貴では、昭和五五年以来、被告三貴の株式を公開・上場する計画を進め、その一環として、被告三貴の株式を社員やその家族名義で割当てていた。ところが、木村社長は、株式上場準備を進める過程で、社員らに株価の上昇による利得を期待する好ましくない風潮が起こっているとし、上場を取り止めることを決意した。
昭和五八年八月頃、被告三貴において開かれた役員会において、木村社長は、原告春田ら役員に対し、昭和六〇年に予定していた株式上場は取りやめる旨、その代わりに創業以来の幹部職員の功労に報いるため、新株を額面で発行し、これを三貴グループの一員であり、被告三貴の持株会社である参加人ジェイ・ハウスが額面の一〇倍の価格で買い取る旨、また上場準備のため、社員の家族名義にした株式は、参加人ジェイ・ハウスが額面で買い取る旨告げ、更に役員全員は、木村社長に対し、白紙委任状を交付するように求めた。そこで、原告春田ら役員は、右求めに応じ、白紙委任状(<証拠略>、以下本件委任状という。)の委任者欄に署名捺印してこれを交付した。その際、同委任状の代理人欄、委任事項欄はいずれも空欄であった。
木村社長の告げたとおり、原告春田は、昭和五八年八月二六日、同原告の家族名義の株式合計一三三〇株について、参加人ジェイ・ハウスから、額面代金六六万五〇〇〇円の支払を受け、これを譲渡した。また、同原告は、昭和五八年八月二四日、被告三貴の新株一五六〇株の割当を受け、同五九年三月二一日、同株式について、参加人ジェイ・ハウスから、額面の一〇倍に相当する代金七八〇万円の支払を受け、これを譲渡した。
原告春田は、昭和六一年九月頃、被告三貴を退職することを決意し、同年一〇月頃、被告三貴の経理財務担当常務取締役であった通畑亮一や同じく人事総務担当常務取締役であった渡辺修身と、原告春田が保有していた被告三貴の株式二万四一〇〇株(本件株式)を額面の五倍の代金で買い取ってもらう交渉をしていたが、被告三貴の容れるところとならず、右渡辺常務は、同月二八日頃、原告春田に対し、本件株式を額面金額で売り渡すよう求め、株式譲渡承認請求書(<証拠略>)を交付した。しかし、同原告はこれを拒絶し、同月三一日、被告三貴を退職した。
そこで被告会社では、原告春田から受け取っていた本件委任状(<証拠略>)の代理人欄に木村和巨の住所氏名を、委任事項欄に「私の所有する株式会社三貴の株式全部を額面金額で第三者に譲渡する件。株式会社三貴に対して株式譲渡の承認を申請し、これについてなす件。株券、代金を授受する件。」と各記載し、また日付欄に昭和五九年三月二二日と記入し、これを利用して、昭和六一年一〇月三一日、参加人ジェイ・ハウスが原告春田から本件株式を額面代金一二〇五万円で買い取ったものとして処理し、同日、原告春田に対し、同金員を送金した。
<2> 右認定事実によれば、原告は、被告三貴を退職した昭和六一年一〇月三一日当時、本件株式を額面の五倍の代金で買い取るよう希望していたものであり、額面代金で売り渡すことを承諾していなかったものと認められる。本件委任状は、昭和五八年八月頃、委任事項等を白紙のまま木村社長に提出されていたものであるが、右提出当時、原告春田が将来その保有する株式を額面で売り渡すことを承諾していたとは認められないのみならず、右のとおり昭和六一年一〇月三一日頃には、同原告は、本件委任状の委任事項欄の記載事項とは明らかに反する意思を有していたものであり、被告三貴側もそのことを認識していたものと認められるから、本件株式の譲渡代理行為は、原告春田の受権なくなされた無効のものというほかはない。
なお、被告三貴は、同被告の元従業員の訴外志賀健二らが、額面代金で、その保有する被告三貴の株式を同被告に譲渡していることから、原告春田の場合にも同様に額面で売買する合意があったかのように主張するが、これをもって、被告三貴創業以来の会社幹部である原告春田と同列に論じることはできない。
よって、抗弁事実は、これを認めることはできない。
(乙事件)
五 原反管理責任について
1 請求原因1の事実並びに同2の事実中、原告春田は、常務取締役として、被告三貴の代表取締役を補佐して業務の全般につき善良なる管理者の注意をもって忠実にその職務を執行すべき義務を負っていたこと、及びLF商品開発事業部が商品計画部、生産管理部、商品企画部からなっていたことは、いずれも被告三貴と原告春田との間に争いがない。
2 そこで、請求原因2について、原告春田が在庫原反や簿外原反の管理義務を怠っていたかどうかについて判断するが、原反管理をどのように行うかは、会社経営の一環に属する事柄であり、取締役の経営判断が許容される裁量の限度を逸脱した場合に初めて善管注意義務違反又は忠実義務違反の責任が問われるものと解するを相当とする。
そこで本件についてこれをみるに、右当事者間に争いのない事実と証拠(<証拠・人証略>)によれば、以下の事実が認められる。
原告春田は、被告三貴の常務取締役として、昭和六〇年五月二〇日当時、同被告の婦人服、子供服、毛皮等の製造・販売を担当する部門であるLF商品開発事業部の部長であり、同六一年一月二〇日当時には、同部の統括部長であった。LF商品開発事業部には、LF商品計画部、LF生産管理部、LF商品企画部が置かれ、LF商品計画部は、商品の仕入れ計画、生産計画、原材料管理を担当し、LF商品企画部は、商品のデザイン・パターン等の企画を担当し、LF生産管理部は、商品の生産を担当していた。
昭和六〇年一一月頃、LF商品開発事業部では、同年の秋冬商品の過剰在庫が発生し、同年末頃から、被告三貴の監査部による監査がなされた。そして、原告春田は、同年九月以降のLF商品開発部の売上伸び率の低下の責任を問われ、常務取締役から取締役統括部長に降格された。
昭和六一年七月二一日、監査部長井桁義夫から被告三貴社長に宛てたLF商品部原反調査報告書(<証拠略>)によれば、「同部の昭和六〇年二月末日の期末棚卸確定報告に関し、帳簿在庫高二億五〇九九万一九八三円、実地棚卸高二億一三二八万一九八七円、差異高三七七〇万九九九六円であり、これは全部原価計上され、ロスなしと報告されているが、監査部の調査によれば、ロスは、逆ロスを差し引いて二一三一万一七八五円存在する。LF商品計画部原反在庫として、二二八〇万円計上されているが、委託先の確認印がない。同在庫は、東洋物産の下請工場であるロムールに預けられており、四三〇万三四三五円と評価されているが、これが使用できるかどうかは疑問である。笠原被服、セブン企画、辻岡光、山本ボーイ等、縫製業者に昭和五七年以来預けたままの原反が沢山あるが、同原反は、期日も経過し、商品も劣化し、流行遅れとなっており、全く無価値である。また、大宮商管の原反在庫二二三万五〇〇〇円は、五年間も保管したままであり、商品化は不可能な無価値原反であり、評価損は、合計一三七九万八〇〇〇円である。原材料残高明細書を原反業者及び縫製業者に送付し、確認印を押捺してもらい、これを回収するが、回収後の同明細書について、事業部長、商品管理部長及び商品計画部長の認印がなく、原反管理手続が不適正である。」というものであった。
原告春田は、右不適正な原反管理の責任を問われ、昭和六一年八月一日、取締役統括部長から総務人事統括部課長に降格された。
昭和六一年九月二九日、LF商品管理部課長代理である菊池浩一は、棚卸事務局長宛てに「昭和六一年八月度LF原材料部門決算棚卸在庫確定報告書」(<証拠略>)を提出した。
原告春田が昭和六一年一〇月二三日に提出した顛末書(<証拠略>)によれば、「古い原反残が大量に出てきた件」に関し、その原因として「<1>商品として製品化した後の残反、<2>ファッション・ショー用の原反の残り、<3>商品サンプル作成時のサンプル反の残り、<4>被告三貴が株式会社スノッブ・ハウスを買収した際、同社から引き継いだ残反が考えられるが、<1>については、製品化した商品に残反分も引き落として(仕入れ原価に計上して)、原価○となっているものが相当数あるのではないかと思う。<2>については、極力製品化して消化するよう指示していたが、量・金額についてはその都度口頭で確認していたので思い出せない。但し、会計処理上は、サンプル反と同じく経費扱いとなっていたので、商品化用原材料としての原反としては、原価○と同じである。<3>についても<2>と同じ。<4>については、量的に多いと思うが、主に子供服部門で製品化に使った後、使いきれずにいるものであり、原価は一〇分の一に評価済みである。ともかく、大量に古い原反が出てきたとすれば、自分の管理不足である。」というものである。
3 右認定事実によれば、被告三貴の監査部により、管理を怠っていたと指摘された在庫原反及びその後発見されたとされる簿外原反の発生原因は、前記原告春田が提出した顛末書(<証拠略>)に記載するとおりのものであると考えられるが、いずれも同原告にその責任を帰せしめることはできないものであり、原告春田は、右在庫原反を極力製品化して消化するよう指示していたが、これを再度商品化して利益を上げることは困難な性質のものであると認められる。そして、在庫原反については、仕入れ原価に計上し、或いは経費扱いとし、原価○と同様の扱いとされていたものである。
原告春田は、「簿外原反を厳重に管理するよりももっと大きな利益を上げるための優先的な仕事が一杯あり、原反管理については、部下に方向を示して指示することもあり、優先順位としてはそれほど上位に置いていなかった。」旨供述するところ、右経営判断をもって著しく裁量を逸脱した不当なものと認めることはできず、現実に昭和六〇年から同六一年にかけてのLF商品開発事業部の利益状況は改善される方向にあったと認められることからしても、原告春田が原反管理について善管注意義務を怠り、又は忠実義務に反したということはできない。
六 差押事件処理責任について
1 請求原因3の事実中、被告三貴主張のとおりの第一事件の発令とその被告三貴に対する送達、及び原告春田が第一事件の処理担当者となったことは、被告三貴と原告春田との間に争いがない。
2 しかるところ、証拠(<証拠・人証略>)によれば、原告春田は、第一事件の送達を受けた後、その処理を被告三貴の顧問弁護士に委任し、埼玉ナショナルクレジットが提起した取立訴訟において、同会社と被告三貴との間に、昭和六一年五月七日裁判上の和解が成立し、被告三貴は、同和解条項に基づき、同年二六日、埼玉ナショナルクレジットに対し、差押債権金一五六万一五二七円中、金一一〇万九二一〇円を支払ったこと、ところがこれより先、昭和六〇年一二月五日、被告三貴は、東宝により、右と同一の差押債権について差押命令の送達を受けており(第二事件)、昭和六二年一二月一五日、東宝との間に和解契約を締結し、本来ならば東宝が配当を受けるはずであった按分額六六万〇西九六円の支払を約し、これを支払ったことが認められる。
しかるに、原告春田は、第二事件の送達を受けたことを知らない旨供述しているところ、第一事件の処理担当者が同原告であることは争いがないから、第二事件についても同原告がその処理担当者となったことは予測されるものの、同原告が第二事件の送達を受けたことを知りながらその処理を怠ったこと、あるいは右送達を受けたことを知らなかったことに過失があることを認めるに足りる証拠はなく、そうである以上、原告に第二事件の適切な処理を怠った責任を帰せしめることはできない。
(丙事件)
七 参加人ジェイ・ハウスの請求原因1の事実中、本件株式は、もと被参加人春田が保有していたこと、及び同請求原因2の事実は、同参加人と同被参加人間に争いがなく、請求原因1のその余の事実については、前記四のとおり、これを認めるに足りない。
ところで、被参加人三貴は、参加人ジェイ・ハウスの請求を認容し、或いは同参加人の請求原因事実を全て認めるが、民訴法七一条、六二条により、合一確定の必要上、参加人ジェイ・ハウスの請求の当否は、被参加人春田の主張事実に基づいて判断すべきである。
(丁事件)
八 原告春田の請求原因1の事実中、本件株式はもと同原告が保有していたこと、及び被告ジェイ・ハウスがその株券を所持していることは、原告春田と被告ジェイ・ハウスとの間に争いがなく、被告ジェイ・ハウスの抗弁については、前記四のとおり、これを認めるに足りない。
(結論)
九 以上によれば、甲事件については、原告春田の請求は、利子補給金二万四九一九円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな昭和六二年八月二日から支払済みまで民法所定の年五分の遅延損害金の支払を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当として棄却し、乙、丙事件についてはいずれも理由がないから棄却し、丁事件は理由があるから認容することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条を、仮執行宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 吉田肇)